人口減少時代に住宅価格が上がる不思議な現象

日本は本格的な人口減少時代に突入

  • 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によれば、日本の総人口は今後も減少の一途を辿ると予測されています。しかし、このマクロな人口減少とは裏腹に、特に東京都心部における住宅価格や家賃は上昇の一途をたどっています。これは一体なぜなのでしょうか。
    一般的に、人口減少は需要の減少を意味し、それに伴い不動産価格も下落すると考えられがちです。しかし、この一般的な認識は、日本の人口減少の「質」を見誤っている可能性があります。日本の人口減少は全国一律に起こっているわけではなく、地域によってその度合いが大きく異なります。むしろ、特定の都市、特に東京においては、人口の「質的増加」とも呼べる現象が起きており、これが住宅価格高騰の主要な要因となっているのです。
    この「質的増加」とは、単に人口の数が増えるだけでなく、住宅需要に直結する層、つまり若年層や単身世帯の増加が顕著であるという点にあります。この層の動向こそが、人口減少時代における東京の住宅市場を理解する鍵となります。


    地方が減っても東京は増えている|数字が示す偏在
    総務省が発表した2024年の人口移動報告を見ると、日本の人口構造の二極化がより鮮明に浮き彫りになります。この統計によれば、全国で人口が増加したのは、わずか1都2県(東京都、埼玉県、神奈川県)のみでした。そして、その中でも東京都は、約7万人もの人口増加を記録しており、日本の人口減少局面において突出した存在感を示しています。
    一方で、多くの地方自治体では急速な人口減少が進行しています。これは、日本全体で人口が減っているという事実の一面でありながら、同時に、人口が特定の地域に偏って集中しているというもう一つの側面を示しています。つまり、日本全体としてのパイが縮小する中で、東京という都市が、そのパイのより大きな部分を占めるようになっているということです。
    この人口の偏在は、当然ながら住宅市場に大きな影響を与えます。人口が増加している地域では住宅需要が高まり、反対に人口が減少している地域では住宅需要が低迷します。この明確な二極化こそが、地方の空き家問題と都市部の住宅不足という、日本の不動産市場における深刻なギャップを生み出している根源と言えるでしょう。


    若者の移動が都市の未来を決める

    都市部への人口集中、特に東京への流入を牽引しているのは、間違いなく20代の若者たちです。特に、大学卒業後の23歳前後の層が、毎年安定した住宅需要を生み出しています。彼らは新たな職を求めて都市に出てきたり、あるいは実家を離れて独立した生活を始めるために都市を選ぶ傾向が強いです。
    この若年層の転入は、単なる人口の増加にとどまらず、都市の活力そのものに直結します。彼らは新しい消費行動を生み出し、労働力として経済を支え、そしてまた新たな家族を形成していく可能性を秘めています。彼らこそが、都市部の住宅市場を支えるまさに「エンジン」であり、彼らの動向が都市の未来を左右すると言っても過言ではありません。
    若者の都市志向は、単に就職の機会が多いという経済的な理由だけではありません。多様な文化、情報、エンターテインメントへのアクセス、そして何よりも多くの人々との出会いや交流の機会が、彼らを都市へと引きつけているのです。こうした多面的な魅力が、若者層の都市への定着を促し、結果として持続的な住宅需要を創出しているのです。


    企業の採用戦略と人口動態の意外な関係

    企業の採用戦略と東京への人口流入には、密接な相関関係が見られます。特に、新卒採用人数は、その2年後に東京への人口流入を左右する重要な指標となり得ます。例えば、景気が上向き、企業の採用意欲が高まると、それに伴って新卒採用人数も増加します。そして、その新卒の多くが、企業の本社や主要拠点が多く集まる東京へと集まってくる傾向にあるのです。
    有効求人倍率の動向も、この相関関係を裏付ける重要な要素です。有効求人倍率が高まると、企業はより多くの人材を確保しようと積極的な採用活動を展開します。これにより、特に大都市圏での求人が増加し、結果として東京への人口流入が加速します。このように、企業の経済活動と住宅需要は、人材の流動を通じて密接に結びついています。
    この関係性は、マクロ経済の動向が、個別の住宅市場にまで影響を及ぼすことを示唆しています。企業の投資意欲や採用戦略は、数年先の東京の人口動態、ひいては住宅需要を予測する上で欠かせない要素となるでしょう。つまり、東京の住宅価格は、企業の成長戦略や日本経済全体の活況に支えられている側面が大きいと言えます。

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コロナからの回復で都市回帰が加速

新型コロナウイルス感染症のパンデミック

一時的に人々の行動様式に大きな変化をもたらしました。リモートワークの普及や、都市部での感染リスクへの懸念から、地方への移住や実家へのUターンを考える人が増えました。実際に、一時的に東京圏からの転出超過が観測される時期もありました。
しかし、経済活動が再開し、社会全体が「ウィズコロナ」のフェーズへと移行するにつれて、再び都市回帰の動きが加速しています。特に、飲食業や観光業などのサービス業が回復したことで、これらの産業で働く若者を中心とした都市への流入が急増しました。都市に集積する多様な機会や利便性へのニーズが、改めて高まった結果と言えるでしょう。
この都市回帰の動きは、パンデミックがもたらした一時的な現象が、根本的な都市の魅力を覆すものではなかったことを示しています。人々は、仕事の機会だけでなく、文化的な活動、社会的なつながり、そして日常生活の利便性を求めて都市へと戻ってきたのです。この傾向は、今後も東京の住宅需要を下支えする重要な要因であり続けると考えられます。

「一人暮らし」が住宅需要を押し上げる
日本の人口減少という大きな流れの中で、「世帯数の増加」という興味深い現象が起きています。2024年の統計では、日本の人口が約53万人減少した一方で、世帯数は約51万も増加しています。このギャップこそが、住宅需要を底上げしている重要な要因の一つです。
この世帯数増加の背景には、主に若年層による一人暮らしの加速があります。彼らが親元を離れて独立した生活を始める理由は多岐にわたります。通勤・通学の利便性を追求するためはもちろんのこと、中には「家族と暮らしたくない」という心理的な要因も影響しているケースが見られます。現代の若者たちは、プライバシーや自由を重視し、独立した生活を望む傾向が強いと言えるでしょう。
また、未婚化や晩婚化の進展も、一人暮らし世帯の増加に拍車をかけています。結婚せずに単身で生活を続ける期間が長くなることで、一人暮らしのニーズはさらに高まります。このようなライフスタイルの変化は、単身者向けの住宅需要を押し上げ、特に都市部におけるワンルームマンションやコンパクトな賃貸物件の供給不足を招いています。結果として、これらの物件の家賃上昇を促すことにもつながっているのです。

地方の空き家と都市の品薄状態の二極化
日本の住宅市場は、一見すると「供給過剰」という印象を受けるかもしれません。全国を見渡せば、多くの地方で空き家が問題となり、有効活用が模索されています。しかし、この「供給過剰」という認識は、あくまで全国的な視点での話であり、実態は大きく異なります。
実際には、日本の住宅市場は「地方の空き家増加」と「都市部の品薄状態」という明確な二極化が進んでいます。地方では人口減少と高齢化により、住む人がいなくなった空き家が増加の一途を辿っています。しかし、都市部、特に東京都心部では、前述した若年層や単身世帯の流入、世帯数増加によって住宅需要が旺盛であり、新築戸建や賃貸住宅の供給がその需要に追いついていない状況です。
この供給不足は、当然ながら住宅価格と家賃の上昇を招きます。需要と供給のバランスが崩れることで、都市部の住宅はますます手が届きにくいものとなり、地方の空き家問題との乖離が拡大しています。この二極化は、もはや日本の住宅市場における「新常識」として認識すべきであり、今後の不動産投資や住まい選びにおいて、この現実を理解することが極めて重要となります。

不確かな予測に頼る危険性
これまでにも、東京の人口減少予測はたびたび発表されてきました。しかし、その多くは実際の人口動態とは異なる結果となっています。これは、予測に「確証バイアス」が含まれている可能性があるためです。確証バイアスとは、自分の仮説や主張に都合のいい情報ばかりを集め、それ以外の情報を無視したり軽視したりする傾向のことです。
例えば、「人口が減るから不動産価格も下がるはずだ」という仮説を持っている場合、その仮説を裏付けるデータばかりに注目し、東京への人口流入や世帯数増加といった事実に目を向けないことがあります。しかし、現実の市場は、必ずしも単純な人口減少論だけで説明できるものではありません。
不動産市場の予測は、多岐にわたる複雑な要素が絡み合うため、非常に困難です。過去の予測が外れてきたという事実を認識し、一つの見方に固執することなく、常に最新のデータや多角的な視点から市場を分析する姿勢が求められます。特に、自身の資産形成に関わる重要な判断をする際には、安易な予測に流されることなく、冷静な事実認識に基づいて判断することが肝要です。

不動産価格は局所的に決まる時代へ
「日本の不動産価格」という言葉は、もはや実態にそぐわない表現となりつつあります。なぜなら、現在の日本の不動産価格は**「日本全国一律ではない」という現実を前提に考えるべき**だからです。これまで見てきたように、都市部、特に東京圏では住宅価格が上昇を続けている一方で、地方では下落傾向にあり、空き家問題が深刻化しています。
この局所的な価格形成は、日本の経済構造の変化、特に都市部への機能集中と地方の衰退という大きな流れを反映しています。企業の本社機能や研究開発拠点、主要な大学や病院などが都市部に集積することで、そこに人が集まり、結果として住宅需要が高まるという構図です。
したがって、これからの不動産投資や住まい選びにおいては、日本全体のマクロな視点だけでなく、特定のエリアに焦点を当てたミクロな視点が極めて重要となります。具体的にどの都市のどの地域が、どのような人口動態を示し、どのような住宅需要があるのかを詳細に分析する能力が求められるでしょう。これが、日本の住宅市場における新たな常識であり、賢い選択をするための不可欠な視点となります。

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賃貸と持ち家の“損益差”は拡大している

多くの人が「持ち家か賃貸か」という選択に迷うことでしょう。かつては「賃貸の方が身軽でリスクが低い」という考え方もありましたが、今日の日本の不動産市場では、その損益差が拡大している現状があります。
生涯で支払う家賃の総額を試算すると、5000万円以上にのぼる可能性も十分にあります。もちろん、家賃は地域や物件のグレードによって大きく異なりますが、数十年にわたって支払うことを考えると、その総額は相当なものになります。そして、その支払いが終わっても、手元に残るのは何もありません。
一方で、持ち家の場合はどうでしょうか。資産インフレの恩恵を受け、購入時よりも高い価格で売却できるケースが増えています。特に、都心部の好立地にある物件では、購入価格を大幅に上回る価格で売却され、結果的に居住コストを抑えられた、あるいは利益が出たという事例も少なくありません。生涯で支払う家賃と、持ち家を保有した場合の最終的な資産価値を比較すると、最大で8000万円もの差が生じる可能性も指摘されています。
この損益差の拡大は、単に「持ち家が得」という単純な話ではありません。それは、不動産が単なる「住居」としてだけでなく、「資産」としての価値を強く持つようになったことを示唆しています。特に、将来的な資産形成を考える上で、この賃貸と持ち家の損益差は、賢い選択をする上での重要な判断基準となるでしょう。


東京圏の資産価値は今後どうなる?

東京における不動産価格は、これまで見てきたように、企業の集中と若者の継続的な流入という構造的な要因によって強く下支えされています。今後も、この傾向が続く可能性が高いと見られています。
日本経済全体が成熟期に入り、地方経済の活力が失われつつある中で、東京は引き続き日本の経済活動の中心であり続けるでしょう。新たなビジネスチャンスや高度な専門職の需要は、東京に集積し続けると考えられます。これにより、国内外から優秀な人材が東京を目指し、結果として住宅需要が維持される構図です。
もちろん、短期的な景気変動や金利の動向などが、一時的に不動産市場に影響を与える可能性はあります。例えば、世界経済の減速や国内の消費低迷などが、一時的に住宅価格の上昇を鈍化させることも考えられます。しかし、構造的な需要、すなわち企業の集中と若年層の流入という根本的な要因が続く限り、東京の不動産価格は当面の間、安定的に推移するか、あるいは緩やかに上昇し続けると予測されます。
したがって、東京圏の不動産を「資産」として捉える場合、その価値は今後も高く評価され続ける可能性が高いと言えるでしょう。


賢い選択が将来の生活を左右する

「人口が減っているから不動産は下がる」という単純な思い込みは、今日の日本の住宅市場においては現実と乖離しており、かえって将来の投資判断を誤らせる原因となり得ます。特に東京のような都市では、人口の「質的増加」、すなわち若年層や単身世帯の増加と、それに伴う企業の集中が不動産価格を強く下支えしています。


まとめ

今後の日本において、住宅の選択は、単なる住まい選び以上の意味を持ちます。それは、将来の資産形成や生活の安定に直結する、極めて重要な「投資判断」と考えるべきです。
人口減少というマクロな流れに惑わされることなく、エリア別の人口動態と住宅需要を正しく見極めることが、今後の資産形成において極めて重要となります。具体的には、都市部と地方における人口動態の二極化、若年層の流入と世帯数増加が都市部の住宅需要を押し上げている事実、そして企業の採用戦略と人口流入の相関関係などを深く理解することが求められます。
賃貸か持ち家かの選択についても、単なる感情論や過去の常識に囚われることなく、データに基づいた因果関係を理解し、自身のライフプランや資産状況に合わせた賢い判断を行うべきです。特に、賃貸と持ち家における生涯コストと資産価値の差が拡大している現状を認識し、長期的な視点からどちらがより有利な選択肢となるのかを熟考することが重要です。
現代の不動産市場は、もはや「日本全国一律」ではありません。生活と資産を守り、将来の豊かさを築くためには、局所的な視点から不動産市場の動向を読み解く力が不可欠です。感情や思い込みではなく、客観的なデータと論理に基づいた判断こそが、これからの時代を生き抜く私たちにとっての羅針盤となるでしょう。


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